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平成26年8月30日
於;岐阜県総合医療センター 講堂

参加者総数;72名
テーマ;

障がいとともに歩む子どもと家族を支える〜周産期、乳児期、小児期の継続的な連携とこころの支援〜」

基調講演;都竹淳也さん

ゲスト;仁志田博司先生

形式;基調講演、公開対談、GW

第一回ぎふ周産期こころの研究会を終えて

高橋雄一郎

 

8月30日の土曜日、第一回ぎふ周産期こころの研究会を無事開催する事ができました。ご参加いただきました皆様方にはこの場をお借りして御礼申し上げます。

 

 今回のメインテーマですが、『障がいとともに歩む子どもと家族を支える

〜周産期、乳児期、小児期の継続的な連携とこころの支援〜』 とさせていただきました。周産期は妊娠出産から、望まず障がいを背負うお子さん、そしてご両親はじめ、長期的にお子さんを支えていくというケースがあります。そこにも必ず「こころ」の問題が基本となるだろう、という信念からこのテーマを選ばせていただきました。

 今回ご参加いただいた皆様方は各現場のプロフェッショナルです。それぞれが一生懸命おこさんやご家族を支えておられます。今回は、そういう方々が一同に会して、「こころ」の問題を話すことで、この研究会の場で、今までにない、横の連携を作っていくきっかけになれるといいな、と考えました。抄録集に載せさせていただいた、寺澤先生作の多職種連携の図は、他にはない我々からのメッセージです。彼のはじめの挨拶でものべていましたが「繋がる」ことの大切さを目指して、その一歩を踏み出したい。事務局から、そんな思いをこめさせていただきました。

 

 メインのグループワークのお題は、シンプルに「理想のサポートとは何かを議論する」としました。大きなテーマではありますが、その理想を語るには現状が分からないといけないことも感じながら、「夢」を語っていただけたら、と考えました。とかくひとは、職場、仕事や人間関係などネガティブなお気持ちを持っておられる方々も多くおられます。今回、そういう部分を取払い、あえて理想、夢を語る事でよりいい部分に着目しながら、皆さんのパワーに火がつけば、という裏のもくろみがありました。

 

 第一部はじめは、岐阜県庁で小児在宅の部門で頑張っておられる行政マンの都竹さんに特別講演をお願いしました。発起人の寺澤先生と懇意にしておられたこともあり、快く講演をお引き受け下さいました。都竹さんは、実際の岐阜県庁の行政を動かしている実務者で、アイデアマンでもあられます。今回は岐阜県の現状と、現在目指している施作について熱いご講演をいただきました。ゲストでいらした仁志田博司先生をして、「このような行政マンは初めて」と言わしめるほどでした。湧き出るアイデアと情熱で、確実に岐阜の障がい児者医療について、リアルな行政を実行していただける、そんな希望や夢が感じられるご講演をしていただきました。実は、現在、県では重症心身障がい児者施設の建設が進んでいます。都竹さんは、単に箱ものを作るだけでは駄目で、人材育成も必要だと力説されています。実は自分も、都竹さんたちが県庁で開催されている公開講座を、時間の許す限り受講させていただいているんです。そんな障がい児者医療の、岐阜県モデルの一端をご紹介いただきました。なにより、まず実行してみる、という熱い姿勢は職業人としての生き様をも教えてくださっていました。

 

 続いて長良医療センターの川鰭市郎先生のホストのもと、元東京女子医大の新生児科の教授であられる仁志田博司先生との公開対談をしていただきました。ソファーに座って、“徹子の部屋”風に様々なお話をお聞かせいただけました。お二人とも、日本の周産期医療を支えてこられた、我々のなかでヒーローです。様々なご経験から、こころの問題についてその考え方を教えていただきました。事務局の立場を忘れ、いつまでもその会話を聞いていたい衝動にかられていました。珠玉の言葉集の詳細は座談会の要約(別項)をご参照ください。また先生からは最近出版されたばかりの著書「赤ちゃんの心と出会う」もご紹介いただきました。「母子のこころの絆」を育む手伝い、を我々が目指していくべきというメッセージには、長年倫理的にも、医学的にも熱くお仕事をされてこられた先生ならではのご経験のエッセンスがたくさん詰まっています。仁志田ワールド入門としても、とても読みやすくよい本をご紹介いただけました。いずれこの会のテーマに取り上げさせていただきたいと考えています。

 

その後前回より少し時間をとって、各グループでの自己紹介を行っていただきました。いぶき福祉会“ねこの約束”さんのマドレーヌをくじに使って、グループワークのリーダーや発表者、筆記がかり等を決めていただきました。緑色のマドレーヌはプレゼン係でしたので、なかには緑のマドレーヌがトラウマになった方もおられたようです(笑)。

 

第二部は事例を中心としたプレゼンを4人の方にお願いしました。

最初は長良医療センター小児産科病棟の看護副師長の竹田錦紀さんから、

「育児練習入院から在宅へ移行した家族との関わりから」~周産期連携の中での家庭へ送り出す病棟として~とした実例をご呈示いただきました。重篤な新生児の障がいをもったお父さんが、仕事と24時間介護に疲労困憊され、急変搬送時に病院スタッフに投げかけた言葉はとても重いものでした。ご家族と過ごす事のできる「在宅医療」は理想です。しかし道半ばの医療サポート体勢では、24時間365日の介護に疲れてしまうご家族の実情の一端をリアルに教えていただきました。

 続いて岐阜県総合医療センター臨床心理士の鈴木美砂子さんからは「障がいと共に歩む子どもと家族を支える」~13トリソミ―の妹を持つ小学3年生男児の不登校事例への関わりを通して~と題したプレゼンをしていただきました。妹さんが障がいを持つため、母親から常に理想の子供像を求められたお兄ちゃんの不登校の事例でした。カウンセリングを行い、家族で遊ぶ時間を取り戻したりしながら、やがて不登校が改善していったのです。家族に障がい児を受け入れることで生じる、絆のひずみに焦点を当てた優しい視線は、我々の視野を拡げて下さいました。また、プレゼンもすばらしく、時間にきちっと終了するなどとても洗練されていました。

 3番目は訪問看護ステーションやすらぎ理学療法士 の西脇雅さんから、在宅にて障害児を養育されている母親の「思い」の変化について、アンケート調査結果をご報告していただきました。重度の心身障がい児のリハビリを受けておられるお母さん方の、二つの時期の直のお気持ちをご報告いただきました。最初は児の NICU入院時です。妊娠、出産にかんして自分をせめてしまっている言葉が多く聞かれていたようです。そしてリハビリ中の現在では、「命あるだけでもありがたい」、「生まれてきてありがとう」、「いつも穏やかな表情でいてくれて、存在そのものにとても癒される」などの感想が多かった、とのことでした。この結果は、関わっておられる方々の努力もあるのでしょう。また人のこころは揺れ動くものですので時として疲労困憊のときにはそう思えない場合もあるかもしれません。しかし、そういうコメントがある事を我々は知ることができて「本当によかった」、と感じたのは私だけではなかったと思います。あふれる思いが予定のお時間では収まりきらない状況でしたので、またの機会にお話を伺えたらと思います。

 第二部最後は岐阜県教育委員会、特別支援教育課長の安田和夫さんから

「重症児の教育現場で感じる家族の力」と題して教育現場でのお話をいただきました。特に長年、支援学校におつとめでありそのご経験から、ご講演いただきました。特別支援学校新設に尽力されたご家族の「思い」「絆」について、安心・安全な学校生活への願いの段では合意形成のプロセスこそ重要とも力説されました。長期的展望に立った子ども支援、家族支援に関しては支援学校卒業後の「安心」を得るためにNPOを立ち上げられた事例と、社会が卒業後に関わり続けることの意味を教えていただきました。スライドを使わずに、話しかけるように語ったスタイルは和風ジョブスでしょうか?!  かなり印象的でした。

 

 このような講演、座談会などを聞いていただいた後、第三部としてのグループワークを行いました。全10班のグループ毎に職種、経験、個性も異なっていますので、盛り上がり方やでてくるアイデアも様々であったようです。しかし、プレゼンを聞いていますと、皆さん本当に前向きに取り組んでおられる姿がにじみ出ていました。「こうなったらいいな、こうだったらいいな」というテーマは、アンケート結果を拝見しても、専門的過ぎず、みなさんがそれぞれの立場で比較的話しやすかったのではないかと感じました。3分以内のプレゼンはなかなか難しかったかも知れませんが、ちーん、という音のなるまで、皆さん非常によくまとめていただきました。とても多くの素敵なご意見、アイデアがだされ、笑いありのプレゼンに会場が和むシーンもありました。「いい部分;夢」を語るとき、ひとはきっと「いい表情」になれるのではないかと再確認させていただきました。また、なにより多職種で、このこころをテーマをはなせたことで、少しでも顔が見える関係ができたのではないかと考えています。皆さんのご発表の後、いくつもの場所で、“いくつもの顔が見える繋がり”ができていったことも、大きな成果のひとつではなかったかと実感しております。

 

 今回、助産師歴60年で僧侶でもあられる石田千春さんに無理を言って抄録集に文章を寄稿していただきました。あるご家族への3代にわたる関わりと、いくつかの障がいとつきあっておられるご家族の物語を教えていただきました。子育て、いじめと向き合う親子の関わり方、愛情の文言には、私自身衝撃を受けました。「○○をするとお母さんが喜んでくれます、と書かれているのを見ると 絶えず子供たちの行為を認め讃える事によって、明るい家庭が維持出来ていると考える。」と親の真の愛情のあり方を教えてくれています。そして「寄り添ったと思っていたが、何時の時も私自身が支えられて、共に育てられてきた。」というお言葉は、医療者の本来持つべき謙遜の姿勢をも教えてくれていると感じました。詳細は是非、抄録集をお読みいただければと思います。

 

今回も、あっと言う間に三部まで終了しました。みなさん時間は確かにたりない印象はもたれた事でしょう。しかし、この濃縮した時間に、皆さん自身のこころに何かを感じて会場を後にしていただけたのではないかと確信しております。

 引き続き行った夜の部、懇親会では、30人程度の方々が集い、またまた楽しい時間をすごさせていただきました。フロアーで話しきれなかったことの続きが始まったり、新しいご挨拶が始まり、本当にたくさんの「繋がる」シーンが見受けられたりしました。ここでも時間が足りなく、自分自身もすべての皆さんとお話できなかったのが悔やまれますが、今後の課題としたいと思っています。しかし、なにより参加いただいた皆さんの表情がいきいきとしていたのがとても印象に残っています。楽しい時間は、あっと言う間に過ぎるとはこの事で、自分自身も話に夢中になり、おなかというより気持ちが一杯で店を後にすることができました。

 

 また事務局も皆頑張ってくれました。それぞれが忙しい仕事の合間をぬってのボランティアですので、かなり負担をかけたのではないかと思っています。FB上でのやり取りは夜中に及ぶ事も頻回で、何百回はあったかと思います。しかし、皆この難しいテーマの重要性を真摯に考え、真剣に準備に関わってくれました。また反省会を行い、次回の会を一歩でもよりよくできるよう努力して参ること、事務局を代表してお誓い申し上げます。

 

アンケートから、今後のテーマへのヒントもたくさんいただきました。他にはなかなかない、ある意味画期的な新しい勉強会です。我々の体力が続く限り、地に足をつけて、着実に運営して参りたいと思います。また次回皆様とお会いし、楽しんで勉強できることを楽しみにしつつ、この稿を終えたいと思います。

                         2014.9.19 機上にて。

 

 

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