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平成26年3月1日
於;岐阜県総合医療センター 講堂

参加者総数;61名
形式;ショート講演、グループワーク

ぎふ周産期こころの研究会 「プレ研究会」を終えて。

発起人 高橋雄一郎


3/1に岐阜県総合医療センターの講堂におきまして、無事プレ研究会を終える事ができました。
ご参加いただいた皆様にはこの場を借りて、心より御礼申し上げます。

今回は、はじめの一歩ということで、「プレ研究会」と名付けました。まずは、探りを入れてみたネーミングですが、想像以上先に着地できたのではないか、という気がしています。

思えば、昨年11月の日本周産期精神保健研究会の夜、大阪で焼き肉を食べながら寺澤大祐先生、千秋里香先生と、ぎふでもこういう会をやろう!と盛り上がったのが始まりでした。その深夜、驚くべきことに2時過ぎに、寺澤先生からfacebook上に設立趣意書がupされてきて、その勢いでこの会は始まったのです。有志の事務スタッフがあつまってくれて、facebookでもいつも相談し、ようやくこの3/1を迎える事ができたのでした。 なるべく茶話会風、リラックスして、若手が声を出せるように、現場の事例を大事にして、地に足を付けて、などなど会へのイメージは膨らんでいきました。そして、たどりついたのが今回のスタイルでした。

私からの開会のご挨拶として、マックス=ルケード「たいせつなきみ」からのメッセージを同僚の松井先生の美声で、朗読というかたちでお届けさせていただきました。こどもへの社会からのレッテルに関係ない「親の愛情」のまなざし、が周産期診療におけるスタートだというメッセージです。

第一部として講演を5題お願いしました。発起人の寺澤先生からは普段彼が行っている講演「いのちの理由」のエッセンスの一部を披露してもらいました。新生児科チームと、あかちゃんのドラマを綴った映像と音楽はとても感動を呼びました。実は私自身も、開始にも関わらず、少し涙腺が弛んで、立て直すのが大変でした。

石田チハルさんは、僧侶、助産師の立場で、60余年の経験から、すでに何十年もまえからグリーフケアをされていたことや、不妊症の患者さんのグループの立ち上げ、サポートの歴史などを、語ってくださいました。言葉のひとつひとつの重みの「凄み」、に圧倒されていたのは自分だけではなかった事でしょう。

自分のボスである川鰭市郎先生には、「死産、誕生死 そしてアドバンスケア」と題して周産期における「死」に対する歴史を分かりやすくお話していただきました。未来を切り開いていくには、今までの負の歴史に目を向けていく必要がある、という、まさに自分が研修医時代から叩き込まれてきた現場からのメッセージとその変化についてのお話でした。皆さんが少し前のめりになって、話に食いついている姿が印象的でした。

側島久典先生は、新生児科教授として、日本周産期精神保健研究会理事長として、そして岐阜高校のOBとして、この会にエールを送っていただきました。日本全体をまとめるお立場として、理事長としての広い視野から、「周産期精神保健、親子の心を聴く」というご講演をいただきました。その優しい声音が会場に響きました。

事務局より千秋先生には用語の解説をお願いしました。今回は産科医、助産師、小児科医、研修医、看護師、心理士、特別支援学校教員、看護大学教員、福祉関係、薬剤師、言語聴覚士、保育士などの方々に参加していただきました。文字通り多職種が参加されました。周産期としての疾患、たとえば心理の専門用語、などなど難解な言葉も多いので、議論の前提となるように用語の説明をしていただきました。たとえば「ナラティブってなんだろう?」(これは他の研究会にはない企画ですね。)

第二部は一般演題とミニグループワークを行いました。はじめは心理学の鎌田次郎先生から、スターターとして母性の保障という深い話をいただきました。分娩時の不要な医療介入が母性の障害を生むのではないかという仮説のもと、周産期のこころの問題の基本となる「母性」について、そのさわりをご披露いただきながら、第二部が始まりました。

一般演題のはじめは、助産師の田中季果さんから、一次医療機関で超早産の出産となり、一度は児の死亡宣告までされたお母さんが、その後児を連れてご挨拶に来てくれた、という事例について提示していただきました。

二題目はNICU看護師の小瀬木麻美さんから、我が子を失って、こころを閉ざしたおかあさんとの心を通わせるための手段としての日記を用いた事例を提示していただきました。

グループワークのテーマは、
1 ;医療機関や施設を問わず、あなたが 患者さんや対象者との関係の中で「心を開いてくれた」「心の変化があった」と感じるときは、どんなときですか?
2;患者さんや対象者が心を開いてくれるように心がけていることはありますか?
とさせていただきました。

グループでは事務局の市橋案のチョコレートくじで決めた、ファシリテーター、書記、プレゼン係と担当を決めました。みな、はじめは緊張が見られましたが徐々に慣れてきて少しずつ話に華を咲かせていきました。

 

普段交わる事のない職種どうしで、周産期のこころをテーマに議論する。

これだけでもこの研究会は成功ではないか、と微笑ましく眺めていました。

 

助産師の大嶋秀美さんからは、看護チームとして、経験の差のある若手、ベテランが一緒に周産期のアドバンスケアプランを作ってきた歴史、そして苦悩についても提示していただきました。チームによる、燃え尽きの防止、そして教育へとつながるとても大切な問題提起で、今後とも本研究会のテーマの一つとしたいと考えています。

 

 

心理士の緒川和代さんからは、家族の物語に耳を傾ける、として 寺澤先生作による美しい映像、音楽を背景にある重病を煩った児の死、そしてそのお母さんの物語をお話していただきました。心理士ならではのナラティブ、すなわちご家族、医療者の物語でもありました。ここでも、多くの方の涙腺が弛んでいたことでしょう。その余韻に浸りながら第二部を終えました。

 

 

第三部は、今回事務局で提案した「18トリソミーのあかちゃん」をメインテーマに据えて本格的なグループワークを行いました。

 

松井先生からは、一児18トリソミーの双胎例として、若いスタッフが関わる場合とチームでそのスタッフを支える方法についての問題提起をしていただきました。

千秋先生からは、産後に気持ちがかわって胃瘻をたててほしい、という親の気持ちを実現できなかった苦渋の例についての詳細な経過報告がされました。

そして、寺澤先生からは、外国籍の父親がとても明るく18トリソミーの我が子を愛する姿から、医療の常識とはなにか、というテーマを投げかけました。
 

1、対応するスタッフの経験の差を、チームとしてどのようにサポートしますか?
2、「両親の希望」に寄り添うために、大事なことはなんだと思いますか?
3、今回の3題の内容は、あなたの「常識」と比べて全てが一致する考えでしたか?医療・福祉現場での「常識」とはなんでしょうか?
というテーマで皆さんでグループワークをしていただきました。

症例の内容の専門性、職種の違いから、議論ができない方がいるといけませんので寺澤先生に18トリソミーについて、仁志田先生、田村先生のいわゆるガイドラインなどについて説明していただきました。また議論するテーマをいかに普遍的なものにしていくか、という点にも工夫を凝らしました。各班のファシリテーターの努力もあり、どの参加者の方も、各々の立場から、盛んにお話しいただけていた様に思います。

約30分程度の短い時間ではありましたが、この時間に関してはアンケートでは「ちょうどよい」のお答えが80%をしめていました。「少し話し足りないぐらい」、すなわち腹八分ぐらいがよいのかもしれませんね。

こうしてなんとか、プレ研究会、約4時間半が終了しました。お帰りいただく時の皆さんの、すこし心がほぐれた「ほこっ」とした表情がとても印象的でした。

会場を移動し、懇親会では会場全体が盛り上がり、みな席をかわりつつ、多くの方と名刺交換しながら、とても楽しい交流のひと時を持つ事ができました。実は、この裏メニューの内容の濃さが、この会の隠れたうまみだったかもしれないと今はつくづく思っています。

最後になりましたが、この会を裏方として支えてくれた事務局に、惜しみない拍手を送りたいと思います。発起人の寺澤大祐、ホームページ、当日の音響、映像もすべて担当しました。会計、受付、グループ決めを直前までしてくれた田中季果、市橋洋子。全体のファシリテーターで中核をまとめてくれた大嶋秀美、千秋里香。アナウンサー役、会議の書記などの松井雅子。宴会係、ファシリテーター補佐の馬場枝里香。会場の設備の準備を担当した緒川和代。いろいろと記録係、雑用で動いてくれて、アンケートなどまとめもしてくれた寺田佳代、西田みやび、小瀬木麻美。当日は日勤で参加できなかったけれども懇親会をしきった羽田野香世。参加できなかったけれども、事前にお茶やプログラム印刷をしてくれた村田美香、看護教員として適切なアドバイス、意見をくれた武田福美、佐藤真琴。 このすばらしいメンバーで、なんとかプレ研究会を無事終える事ができました。今回の成功で、なんとか秋の「第一回」に弾みがついたと思っています。

多くの有志の皆様と、また楽しく勉強できるように、今後とも事務局一同頑張っていきたいと思っています。 

 

 

 2014.3.11 大震災3年目の日に。

 

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