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「第二回 ぎふ周産期こころの研究会 を終えて」

発起人 高橋雄一郎

二月の最終日の土曜日、岐阜の地でこころの研究会を無事終える事ができました。この日は非常に多くの研究会や行事などが重なっており、お忙しいなかご参加いただきました皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。

 

 今回のテーマは「チーム医療とこころ」を選ばせていただきました。
 

プログラムのご挨拶としても述べさせていただきましたが、非常に繊細なこころの問題を、医療者が個人一人で思い悩みながら背負うのではなく、どうしたら病棟や部門全体として皆で行えるか、という深いテーマです。そしてはじめは、こころという部分が、そういうチーム医療に適していないかもしれない、というジレンマを認識することから会の構図を練りはじめて行きました。共に学ぶ、「共育」というキーワードでも語られる世代間の死生観、関わり方の共有、そして医療者が燃え尽きることがないようにお互いに支えあえるようないい組織作り、そして部門内でいかに綿密なコミュニケーションをとるか、ということも議論すべきテーマになると考えました。事前に推敲していく中で、これらはいい医療を目指すものにとっては、実は不可欠で根源的な重要なテーマである、と皆で考えるようになったわけです。そして本会でのポリシーであるポジティブな思考、うまく行く部分に焦点を当て「チームが一丸となる瞬間」を語る事で夢のある議論ができないか、と考えました。
 
 基調講演は「スタッフの「こころ」に配慮した共育」 ~新米教育担当となって思うこと~として埼玉医科大学総合医療センターNICUにご勤務の野村雅子さんからお話をお伺いました。日本でも最もおおきな周産期センターの一つでの、看護教育を担当しておられる立場から新しい視点と可能性をたくさん秘めたユニークなお話を伺うことができました。新人スタッフへの「心折れる言葉」集と反対の優しい言葉の掛け方は具体的なアドバイスであり、医療界が学ぶべき普遍的なものと感じました。そして次回も受けたいなと思うような実習をめざそうと述べられていました。事例の振り返りは手短に!そして、あれもできないこれもできない、ではない未来思考の振り返りを行うなどのアドバイスがありました。ユニークなご経歴の持ち主ならではのすばらしい「共育」への模索をリアルな御経験から語っていただきました。

 

 川鰭先生がホスト役をつとめていただいている「市郎の部屋」第二回には埼玉医科大学総合医療センターの新生児科教授の側島久典先生をお迎えして、周産期領域で働くスタッフの「こころ」のケアとチーム医療と題して対談をしていただきました。側島先生は日本周産期精神保健の理事長もされておられます。また地元の岐阜高校のご出身というご縁でもあり、本会の設立当初より我々にエールを送ってくださっています。何と言っても日本でもっとも大きな周産期センターの一つを率いつつ、つねに「こころ」の問題とも真正面から対峙しておられる第一人者ですので、そのお言葉は静かで優しくはあるものの、重要なテーマをたくさん投げかけて下さいました。重症な疾患の出生前診断がなされたときに、あまり希望のない話ばかりだと生後、ご両親の気持ちを取り戻すのに苦労されているそうです。そういう意味で、胎児期から新生児期という多職種のチーム連携は大事で、診断時点から始まっているという点を強調されていました。また大きな組織ですので院内のメールなどを利用されコミュニケーションを密にとる努力をされておられるとのことでした。また最近は同業者のバーンアウトや離職に対するカウンセリングなどにも力を注がれ、何時間も傾聴される事があるそうです。今まさに、スタッフの心の問題と取り組まれている現場のご苦労話を教えていただきました。
 
 一休憩として、岐阜のある雪深い訪問看護ステーションから届いた、ワンシーンを事務局の心理士である緒川さんが朗読してくれました。「まだ見ぬ孫へのいのちのバトン 編み物プロジェクトから感じる家族の絆」と題して、発起人の寺澤大祐先生のピアノの生演奏を背景に、その澄んだ声で語っていただきました。ガン末期の時、お孫さんが生まれるのを心待ちにしながら、編み物をあむそのお手伝いをチームがサポートした患者、家族と医療者の物語です。チームのこころが一つに向かうことで心が通ったケアを実現できた成功例として報告させていただきました。

 

 この物語の後日談の一部をご紹介します。患者さんを中心としたチームはパッチワークのように繋ぎあわせ、畳一枚分もある編み物の大作を完成させました。何人もが編んだ為に形もバラバラだったそうですが、患者さんからは「このバラバラなのが皆さんの思いがこもっていていいのよね」と言われたそうです。チーム医療というのはこういうものなのかもしれないとひそかに感じています。

 

 メインのグループワークでは4つのテーマを柱に据えました。「こころの問題とチーム医療のジレンマとは」として、今現場にあるジレンマを語っていただきました。各職場において、なかなか人手不足や「こころ」のケアまで手が廻っていない現状、調整役不足なども報告されました。現状ではなかなかどの職場でもジレンマが存在するということを共通認識できた意義は大きかったのではないでしょうか。
 

 テーマ2の二つ目は「医療者のバーンアウトをとめるには?」というテーマを選びました。今回は寺澤先生が書かれた雑誌ネオネイタルケアのケーススタディを参考モデルにさせていただきました。この燃え尽きは特に周産期という忙しい現場において珍しくない問題であり、想像以上に多くの参加者、スタッフが実体験を熱く語る場ともなりました。ちいさな成功をほめあう雰囲気も重要である、というご意見もありました。また、どんなメンバーも「今日行く」ところがある、ということが燃え尽きを防ぐキーワードである、という大先輩からの明言も飛び出しました。どのご意見も深くうなずかされる言葉ばかりでした。医療者、チームのメンバー自身のこころの健康を維持するにはどうしたらいいのか、これだけでも一日議論するのに値する深いテーマであったと思います。続編が期待されますね。
 

 3つ目は「チームが一つになる瞬間のためにできることは?」でした。緩和ケアの事例を頭におきながら、この研究会のもつ「positive思考の重要性」を底流にもった議論をしていただきました。チームとしては具体的な目標,ゴールを共有することが大切ではないかという前向きな意見がでました。しかしゴール、目標の設定が高すぎる事も多い、という指摘もありました。そして患者さんからいただく感謝のお気持ちなどをみなで共有することが明日への活力に繋がる、という具体的な思いも寄せられました。簡単なテーマではありませんが、皆が楽しく議論していただけていたのが印象に残っています。前回も書きましたが、やはり人はpositiveな明るい側面をみることで元気がでるのでしょう。
 

 テーマの4つめは「こころの問題で理想の「共育」とは?」としました。野村さんの御講演を基調として若手教育、こころのケアの伝承について議論していただきました。以前の研究会でも医療者は常に患者さんから学ぶことが多く、先輩後輩なく、まさに何年たっても「共育」なのだと学びましたが、今回もそういう議論が多くでていました。まさに各組織でこれから、真剣に考えて取り組むべき課題であることもわかりました。

 

 今回は実は研究会の日程が様々な企画と重なり人数自体は前回を下回りましたが、会場の雰囲気は負けず劣らず熱く、休憩時間にも各所で熱い議論がわき上がっておりました。当初我々がほどよい人数で、と企画した思いが実現できた会となりました。それぞれ思いがこもった方々が集まるとこんなにも場が熱くなるのだと今更ながら学びました。テーマも「チーム医療」という、実はどの職場でも身近にある、根源的なテーマであったことも皆さんのなかにある思いの大きさを感じる事ができました。

恒例の夜の部も大盛況でした。各所で議論の輪ができ、横のつながりもますますのびていった事だと思います。ほどよいアルコールも手伝って、場は最高潮に楽しい交流の会場となりました。あと何時間あっても足らないぐらいでしたが、惜しまれつつ散会いたしました。今回は、東京、高知、兵庫などの周産期に携わる仲間が我々の主旨に賛同して、はるばる参加してくださったのも特徴の一つでした。この輪がますます広がりますように精進して参りたいと考えます。

 

 今回、準備段階ではぎふの周産期を支えるチームの各スタッフの通常の業務もとても忙しく、まさに“燃え尽き寸前”なところでの研究会準備でした。実にプログラムの印刷も完成したのは前々日ぐらいでしたでしょうか。到らない部分もおおくあったかもしれませんがお許しいただければと思います。よくよく考えますと我々スタッフ自身がこの研究会で皆様にお会いでき、パワーをいただくことで更なる元気をもらいました。また次の会も成功させたい、とモチベーションがますますあがっております。

次回は8/29土曜日、仁志田博司先生の御本「赤ちゃんの心と出会う」からヒントをいただき「母性」を議論してみたいと考えております。先日行われた研究会の反省会では「母性とは何だろう?」という議論でほとんど時間が過ぎました。皆様はどのようにお考えですか? 
 

 また皆様とこんな感じで周産期の「こころ」について熱く語れる日々を心待ちにしつつ、また日々の臨床、研究に励んで参りたいと考えています。

                 3/23 桜開花の報を聞いた日に

 

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